イランのテヘラン出身であるデビッド・バグハーザーデハー(David Bagherzadeh)さんは、吉林路で「老外一品牛肉麺」を営んでいます。「老外」とは『ガイジン』のことです。「老外」の二文字と彼の名前『David』が刺繍された調理服を着てインタビューに臨んだデビッドさん。その文字を見下ろしながら「私は『老外』です。私たちはみんな『老外』なんです」と微笑みました。
台湾の市場とイランのバザール
デビッドさんは浜江市場近くにある台北市第二青果卸売市場で多くの食材を購入します。ここは朝早くから営業している昔ながらの屋外市場で、店用と自宅用両方の野菜を買います。とれたての魚介類が揃う台北魚市もすぐ向かいです。デビッドさんは市場で新鮮な材料を買うだけでなく、揚げ物の軽食や刺し身なども楽しむのだそうです。
この市場はとても整然としている、とデビッドさんは言います。肉類は肉類で、野菜は野菜でまとまって売られています。イランのバザールでは生活用品が野菜や肉の隣で売られていることもあるのだそう。「必要なものを探すのにもっと時間がかかるということです」
台湾の市場で、デビットさんが慣れなけばならないことがいくつかありました。まずひとつは肉や野菜を量る時、キログラムよりも斤(1斤=600グラム)がよく使われていること。また、イランのバザールではどの食品も値段が決められているので値切ることはできませんが、台湾では許可されています。最大の違いは、台湾の市場では買いたい商品を選べることだと言います。「イランでは商品に触ることはできません。傷があったり熟し過ぎているものは店の人が取り除いておくので間違って買ってしまう心配はないんです」大量に買う時も、自分で一番良いと思うものを選べるのは本当に素晴らしいことだとデビッドさんは言います。
たくさんの違いがある台湾の市場とイランのバザール。どちらが良いか選ぶことは難しいけれど、デビッドさんはどちらで買い物をするのも好きだと言います。
旅に出かけた時、昔ながらの市場はその土地の農作物や食べ物を知るのによい場所です。デビッドさんは外国で市場へ行く時、必ずすることを教えてくれました。「市場で買い物をする前にまずコンビニへ行ってコーラを買うんです。その土地の物価を知るためにね」
栄光への道
デビッドさんは面白い人生を歩んできました。まず7歳の時に柔道など格闘技を習い始め、その後、料理と靴作りをかじり、その技術で稼いだお金で旅にでます。しかし、格闘技への情熱が薄れたわけではありません。今は中央アジアのレスリングであるクラッシュに関わっており、時間がある時にはレフェリーを務め、競技会の開催をサポートしています。8月には台北からアジア大会に参加したクラッシュのチームに随行しました。
どうして牛肉麺のシェフとしてレストランを経営するようになったのでしょうか。デビッドさんはトルコ、ギリシャ、キプロスを旅していた時に他のバックパッカーから台湾について聞き、1995年に台北へやってきました。なぜ台北を選んだのかと尋ねると、「台湾で知っていた唯一の場所だったから」との答え。牛肉麺を作るようになったのは、それから数カ月も経たない頃でした。「当時は英語の看板やメニューが多くありませんでしたので、スーパーへ行って自分が知っている材料や食料を探したんです」その後、冒険心をくすぐられ、屋台の食べ物に挑戦してみるようになったそうです。
初めて作った1杯の牛肉麺からレストランの開店まで、まっすぐな道のりではありませんでした。デビッドさんは牛肉麺に興味をそそられたけれど、それを売ることになるかは分からなかったと言います。まず経験を頼りにペルシャ料理のレストランを開いて、ケバブやさまざまな料理を売るほうがよいだろうと考えました。「でもスタッフが長続きしなくて」とデビッドさんは振り返ります。「数カ月で辞めてしまうんです。ペルシャ料理を学ぶことが将来役に立つのか分からないからでしょう」2年後、デビッドさんはペルシャ料理のレストランをやめて牛肉麺を売ることに決めました。2007年のことです。
2007年の後半と2008年の丸一年を注ぎ込んで料理のスキルを再び磨いた後、デビッドさんは2009年に台北国際牛肉麺フェスティバルに初めて参加します。「コンテスト会場に到着した時、みんな私をじっと見つめるばかりでした」予選には60人のシェフが参加し、決勝に残ったのは5人。デビッドさんは最終的に第3位に入賞しました。その後も数多くのコンテストに参加し、2012年には最もよく売れた牛肉麺として賞を獲得します。
デビッドさんの牛肉麺はショウガのパウダー、クミン、シナモン、黒コショウ、ターメリックなど輸入したペルシャのスパイスの組み合わせて作られています。これが牛肉麺のスープに独特の風味を与えています。また、ゆっくり煮込んだ牛骨が濃厚な味わいを生み出しています。
料理の決め手は材料
「老外一品牛肉麺」には中国や韓国をはじめ、日本、欧米各国のお客さんが訪れます。多くは、ランディス台北ホテルをはじめとする近隣ホテルのコンシェルジュからの紹介など口コミで来店しているそうです。「多くのお客様が友達や家族を連れて牛肉麺を食べに来てくださいます」欧米と日本のお客さんに人気のメニューは紅焼(醤油煮こみ)牛肉麺、中国と韓国、香港のお客さんは三宝麺とのこと。これは醤油で煮込んだ牛肉に牛スジと牛の胃袋を加えたものです。
台湾料理と故郷で親しんだ料理には作り方に大きな違いがある、とデビッドさんは言います。「台湾料理はすべての材料を素早く調理します。イランでは材料をひとつ加えたら、しばらくして次の材料を入れます。ですので、料理の過程がより長くなるんです」また、「イランから来た人々にとっては牛肉麺は食事ではなく軽食でしょう」とも言います。しかし、どこの料理であれ、どんな料理方法であれ、材料が決め手です。「運転の仕方を知っていれば、どんな車も運転できるでしょう」料理も同じだと、デビッドさんは語ります。
デビッドさんと牛肉麺、台湾料理、そして台北との恋はまだまだ続きそうです。台北は自分にとってとても馴染み深い町になったと言います。「台湾のどこかへ旅行へ行くと、いつも台北が恋しくなるんだ」デビッドさんの情熱とユニークな牛肉麺を味わいたいなら「老外」へ行きましょう!
おすすめレシピ
デビッドさんはレストランで牛肉麺だけでなくキムチなどの小皿料理、そして酸梅湯(梅ジュース)など飲み物の準備も手がけています。作るのが好きで、店でも人気のメニューは涼拌黄瓜(キュウリの和え物)だそう。インターネットで新しいメニューを研究し、いくつかのパターンで作ってみて、レシピに独自の手法を加えてみると言います。台湾料理を作ってみたいと思う人たちにも、同じようにやってみることをおすすめするとのことでした。
涼拌黄瓜
材料:
‧新鮮なキュウリ 2,400g
‧塩 10g
‧砂糖 200g
‧ごま油 30cc
‧白酢 600cc
‧ニンニク(みじん切り) 15~20 かけ
‧赤トウガラシ(みじん切り) 3g
作り方:
調理開始の少なくとも8時間前に、キュウリをぶつ切りにしてさらし、水気を飛ばしておく
みじん切りのニンニクと赤トウガラシを加え、最後にキュウリを入れてよく混ぜ合わせる
大きめのボウルか容器に塩、砂糖、ごま油、白酢を入れて砂糖が溶けるまでかき混ぜる
一晩冷蔵庫におく。冷蔵すれば1週間保存できる
調理のコツ
キュウリは水分が残り過ぎていると色が悪くなって鮮度が落ちるのが早まるため、少なくとも8時間前には切っておき、十分乾燥させておくこと。
老外一品牛肉麺
中山区吉林路403号
02-2585-3303
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