文 Rick Charette 写真Shi Chuntai
ブレット・ティエマンさん(Brett Tieman)とマット・フレイザーさん(Matt Frazar)は、2014年に設立された「23 Brewing Company(23号啤酒)」の共同創業者。クラフトビールへの情熱を抱いた2人のアメリカ人は、地域の自家醸造ビールの集まりで出会いました。台湾のクラフトビール業界は、この10年以上、大きな盛り上がりを見せています。ビールを愛する外国人が手がける「Redpoint Brewing (紅点手工鮮醸啤酒)」や「55th Street Craft Brewery (五十五街精醸啤酒)」などの醸造所がいずれも成功を収め、「23 Brewing」はこれらと共にこのブームの第二の波を起こしています。台湾では世界貿易機関(WTO)に加盟した2002年、民間の小規模醸造所でのビール製造が許可されるようになりました。
「23 Brewing」の製品は台湾各地で販売されていますが、1年半ほど前、2人は自分たちのバーをオープンするという新しいアイデアを実現することにしました。1号店は台北南部の公館エリアで、MRT台電大楼駅から徒歩圏内の便利な場所にあります。2号店は有名な北投温泉からほど近いMRT新北投駅の「BADOU温泉美食一条街」にあり、3号店はMRT圓山駅前に広がる花博公園の「MAJI集食行楽」にもうすぐオープン。ある晴れた日、「23 Brewing」を代表する公館の「23 Public」を訪れました。壁一面の窓から日差しが注ぎ込む店内で、ブレットさんとマットさんにお話を伺いましょう。
台北を選んだ理由
2人の出身地はは全く正反対。ブレットさんはにぎやかなニューヨーク、マットさんはのんびりしたサンディエゴで育ちました。その町とそこに暮らす人々への強い愛情を持つ2人にとって、自分たちのバーをその地域の暮らしに溶け込んだ存在にすることが共有するミッションです。
なぜ台北に大きなクラフトビール市場がないのか―2人は多くの時間をかけて話し合い、台北、そして台湾にアメリカンスタイルのクラフトビールとその文化を広めようと決めました。「台北はいろいろなものが生まれる町です」とマットさんは言います。「人々はとても国際的で、我々のビールを売るのに最適な場所でした。南部を選んでいたら、地元の人々の好みに合ったかは分かりませんし、どれほど困難だったか想像できません」。
台湾では、醸造所は工業地域に作らなければなりません。「景色がいいとは言えず、誰も醸造所を訪れクラフトビールについて学んだりしたいとは思わないはず」とマットさん。欧米の醸造所やワイナリーには魅力的な展示スペースがあるところも多いのですが、2人は町中にバーを開くほうがよいと考えました。マットさんは、地元の人々がクラフトビールを受け入れてくれたことに励まされていると言います。「飲めばほぼ間違いなく好きになってくれます」。新しい味に挑戦する人なら「本当に美味しいビール」に出会えるのだそうです。
隣人が作る
クラフトビールに出会う場所
「ビール文化を台湾に広めたい」2人はそう考えます。「バーやビールを取り巻く環境のすべて、大きなカウンターを大勢で囲んで楽しむ飲み方などを伝えたいです」。ブレットさんによれば「ビール文化はみんなで共有し、近隣に暮らす人々によって形作られていくものです」。
「台湾では食事の時にグループでお酒を飲むことが多いですね」とブレットさん。「台北へ来た当時は『快炒』(台湾式居酒屋)でよくビールを飲みましたが、楽しかったです。でも昔よく行った近所のバーが懐かしかった。故郷の町ではどこにでもあり、バーテンダーや隣人たちと楽しく過ごしたものです。バーは自宅のリビングの延長みたいなもので、地元のコミュニティと交流する場です」。
最初のバーを公館にした理由は、この地域の雰囲気が良かったから。場所は、以前果物屋さんがあった交差点の角を選びました(大きな窓はもともとあったとのこと)。2つの大学があるこのエリアは学生や教育水準の高い定住者が多く、ブレットさんたちが店を構えた当初は本物のバーがありませんでした。現在、このエリアは4~5軒のバーができ、飲み歩きで人気の場所となりました。「23 Public」も今や多くの常連客がいて、「ご褒美」である名前入りのコースターを持っています。
「地域密着型のバー」を広めるため、ブレットさんとマットさんは大変な努力を続けてきました。マネージャーとスタッフには、顧客と交流して1人の人間として関係を築くよう指導しています。「私たちは私たちのビールに生きているんです」こう語るマットさん。2人はお客さんとビールについて話すことが大好きです。バーはこの店ならではの雰囲気があり、ふらりと入ってきた近所の人をマネージャーが名前で呼ぶこともよくあります。お客さんは「まずビールを飲み、それから軽食と会話を楽しみます。いわゆる『欧米スタイルの飲み方』ですね」。
初めて飲んだクラフトビールが美味しくなかったという人は多い、とマットさん。「ビールはサーブする人が大事です。例えば、私たちはサワービールを販売していますが、ほとんどの人は飲んだことがない味です。そこでお客さんにしっかりと知識を伝え、説明するようスタッフに指導しています。みんなこのビールが好きになりますよ。毎日お客さんに新しい発見をしてもらっているのです」。
ブレットさんは、「ビールという商品はお客さんが飲む前にその期待を管理して、心の準備をしてもらうことが重要」と付け加えます。つまり外国人が何の覚悟もなく臭豆腐を食べたらまずいと思うのと同じで、馴染みのない味や食感、匂いというものは、ビールであれ豆腐であれ、受け入れられにくいものだということです。
変化した台湾人のビールの好み
「私たちが最初に作った『No.1ペールエール』は4年前の発売時に大変な人気になりましたが、80%以上の購入者が外国人でした」。マットさんはこう続けます。「今、このバーを訪れるのは80%が地元の人たち、約10%が観光客です」また、ブレットさんは「嬉しい驚きなのは客層が広がっていること。年齢や性別も多様になり、学生だけではなくなりました」。学生はしょっちゅうクラフトビールを飲めないので、ハッピーアワーを利用します。ブレットさんによれば、バーには学生や若い人々が来店するハッピーアワーと、その後の近隣住民を中心にさまざまな人たちが集まる2つの時間帯があるそうです。
「23 Public」ではハッピーアワーの後も、さまざまなビールを試すことができる特別サービスを提供しています。「バーを始めたことでブランドの認知度が高まり、ビジネスも大きく成長しました」とマットさん。バー開店前から行っていた飲食店などへの製品販売にも影響はなく、顧客もマットさんたちのバーを利益を奪い合う競争相手とはみなしていないそうです。誰もがクラフトビールという「パイ」が大きくなりつつあるのを知っていて、醸造所同士が協力し始めているのだと言います。
「ミシュランガイド台北版」の影響
今年、台北版「ミシュランガイド」が発表されました。「台湾にとって素晴らしいことで、この町の洗練された味覚を反映しています。台湾は観光地としてやや魅力に欠けますが、ミシュランガイドによってハイクオリティなグルメ体験のために台北を訪れる観光客が増えればと願っています」とブレットさんは言います。
「23 Brewing」のビールは、ピザやバーベキューなど昔ながらのアメリカンな味に合うだけではありません。「うちの『No.1ペールエール』やホップの香りが強いインディアペールエールなどは、台湾の餃子や刈包(台湾ハンバーガー)、滷味(台湾式煮込み料理)などにもぴったりです」とマットさんは教えてくれました。スタウトビールには、地元のショコラティエが手がけたチョコレートスティックがよく合うそうです。
2人の台北ライフ
お気に入りの食べ物と過ごし方
「ビールおたく」を自称するマットさんは、美味しいビールを提供するレストランやバーへ行くのが大好き。台北には「クールなバーやスポット」がどんどん増えていると言います。カリフォルニア出身の彼は週末になると宜蘭県を訪れ「ビーチでサーフィンをしたり、楽しく過ごします」―もちろん、手には美味しいビールを持って。
一方、ブレットさんはこう話します。「毎日が楽しく、この体験を与えてくれた台湾を心から愛しています。台北をあちこち散策するのが好きなんです。旅行者にとって台湾を知る入口となる素晴らしい場所ですし、自分の考えを持った人たちであふれています」。さらに、台北旅行についてのアドバイスをくれました。花博公園の「MAJI集食行楽」は子ども用のオープンスペースがあり、父親であるブレットさんは特にお気に入りの場所です。「クラフトビールを売る小さくて良い雰囲気のお店もありますし」。また、もうひとつのバーがある北投エリアも、地元との強い一体感があって好きなのだそうです。
2人は快炒や台湾スタイルのバーベキュー、牛肉麺の大ファンです。実は臭豆腐も含めて、台湾の食べ物は何でも大好きなのだそう。ブレットさんは最後にこう言いました。「正直に言うと、食べ物とMRTがここに引っ越すことに決めた理由です。MRTは、これまで利用した交通機関の中で最も快適で便利なもののひとつです。とくに子どもと一緒だとね」。2人は台北を訪れる旅行者に、ここに暮らす人々の親切なもてなしを体験することを強く勧めてくれました。
23 Public
大安区辛亥路一段100号
02-2363-2387
15:30~00:00
23-brewingcompany.com
飲酒は適量を心がけましょう。健康に危害を及ぼすおそれがあります。
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